アートとしてのジュエリーの役割について

個性を尊重する社会のためにジュエリーはある

2年ほど前に、来日していたニューヨークでコンテンポラリージュエリーのギャラリーを経営している、ギャラリスト、シャロン・クランセンさんのレクチャーに参加しました。
シャロン・クランセン

それまでにも、コンテンポラリー・ジュエリー、アートとしてのジュエリーに関しては、感覚的にすごく面白いなという気持ちがありました。
しかし一般の市場に出回るコマーシャル・ジュエリーとアートとしてのコンテンポラリー・ジュエリーについて、どういう価値観で捉えていけばいいのかが、私には、もやもやして言葉になりませんでした。

私がずっとジュエリーにいだいていた違和感。
ステイタスとしてのジュエリー、金持ちの象徴としてのジュエリーとはまた別の道があるということがわかってきました。

「素材や物質的な価値に必ずしも頼らない、

その人その人の価値感を表すものが、本来のジュエリーの貴重な価値(Precious)であり、

人生は短いから、自分をもっと主張しよう!

そして、新しい価値を社会に投げかけていくことが、アーティストの責務である。

個性を尊重できる社会のために今、ジュエリーはある。」

と彼は言った。

コンテンポラリージュエリー

まず、その前に、「コンテンポラリー・ジュエリー」という言葉が、聞き慣れないだろうから、そこから少々説明すると。
1970年代に、世界的に個性的なファッションが流行し、ジュエリーの世界にも、変化が見られてきました。
そして、アートとしてのジュエリー、コンテンポラリージュエリーを扱うの最初のミュージアムがオランダで4件出現したそうです。

それをスタートに富の象徴としてのジュエリーではなく、素材価値に頼らない、様々な個性的な表現を、身に着けられるアートとしては制作するというジュエリーの世界が出来上がってきました。
その活動は、ヨーロッパを中心に、次第にインテリジェンス(知的)な層の人々に支持されるようになり、

Ajavahe. Time Difference at the 7th Tallinn Applied Art Triennial, Estonia.Artist from 19 countries were invited to…

Klimt02さんの投稿 2017年6月23日

現在、国際的なコンテンポラリージュエリーの祭典が各地で開催され、多くの人を惹きつけています。
その期間中は町のあちらこちらのギャラリーや施設で展覧会が行われたり、レクチャー、ワークショップがあります。
ここでのアワードを獲得することは、アーティストとして世界的に評価される第一歩になります。

ミュンヘンで行われる Schrmuck(シュムック)-
             ミュンヘン・ジュエリー・ウィーク

バルセロナで行われる JOYA(ホーヤ)アートジュエリー・フェア

など、その他ヨーロッパ、アメリカ、中米、南米等でも、このアートジュエリーを楽しむ傾向が近年、盛んになってきました。

Precious(貴重な価値)って何だろう?

こういう潮流のなかで、何をもってしてPrecious(貴重な価値)というのか?
ものの価値はどこにあるのか?を考える。

それは、受け取る側によって異なるけれど、いまや、石や金やプラチナに代表されるレアメタルなどの物質的なものだけを、Precious(貴重な価値)というものではないでしょう。

Unique(個性的)な感性を顧客に対し与えられるものが、本当の意味でのPrecious(貴重な価値)であり、本来の意味でのジュエリーではないかというのが、コンテンポラリー・ジュエリーから学ぶ発想です。

これは今の時代に、非常に合っているような気がしているのです。

金やダイヤモンドをいっぱい使ってあれば、それはそれできれいだけれど、日々の生活の中で、そんなにものを見せびらかしたくないし、自然にスマートに、自分らしく生活に溶け込むものがいいと、結構多くの人々は思っているのではないでしょうか。

日本のジュエリー・アーティストたち

日本人にも、美術大学や専門学校でジュエリーを学び、Shrmuck やJoyaといった国際的コンテストに応募し、賞を受けている人たちが出てきました。

日本のジュエリー・アーティストたちは、その工程を、日本の伝統的な金工の仕事=メタルワーク、つまり伝統工芸の勉強からはいっている者が多く、西洋の真似ではない独特の価値観のあるジュエリーをつくりだせるかも知れません。

日本の金工の仕事で最も隆盛を極めたのは、元を正せば、刀の装飾をする金工師、かんざしなどの飾り職人なのです。
そういう意味で、これからのジュエリー・アーティストたちは、「工芸」と「アート」とを、巧みに融合できるのではないか?という期待感があります。

これからのジュエリーは、クラフトなどとも緊密なつながりが出来上がってくるでしょう。

シンコーストゥディオでは、昨年、ドイツで活動しているコンテンポラリー・ジュエリー・アーティスト西林佳寿子とのコラボレーションジュエリーSurface[面と線]を発表。
そして、今、若いジュエリー・アーティストたちとの、新しい試みが動きだしました。

感覚の鋭いアーティスト、クラフトマンと協力して、日々の生活にちょっといいなと思える新しい、本物の価値(Precious)を提案していきたいと思っています。

ひたむきに、日々を生きる人のために。

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