シンコーストゥディオ

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ひたむきに生きる人のために STORY BOOK ストーリーブック・人

中杉玲子さん

中杉玲子農園園主

米井なぜ、農業を始められたのですか?

中杉単純に嫁いだ先が農業を営みとしていたからです。
付き合い始めた時(今でも)、夫は勤め人で、農業をしていませんでした。畑も2反ちょっとしかなかった。通常、畑3反では食べられないと言います。
(一反:約10アール, 991.736 m²)

米井世田谷と言うと、少しセレブなイメージなのに、ご主人が農家と聞き驚きませんでしたか?

中杉初めてこの家に来たとき、駅から歩いて来たのですが、どんどん周りが暗くなって、畑が姿を現したときには、やはり少々驚きました。

米井ご結婚されて、お嬢様と息子さんを出産なさり、農業を本格的に始められたのには何かきっかけがあったのですか?

中杉第一子目の子どもが小さかった時は、子育てに専念していました。義理の父と母が、ずっと畑で働いていて、私はお茶を出すぐらい。「悪いな。手伝わなくちゃ。」とずっと思っていました。
息子が生まれて、しばらくすると、運よく保育園に入れたので、それをきっかけに真剣に農業をするようになりました。
最初から積極的に農業をやろうという気が特にあったわけではないのです。
娘のときは専業主婦で、息子は働きながら子育てをしました。時間の使い方が全然違った。時間の使い方を工夫すれば、結構できてしまうものだとわかりました。2人とも、全く違う状況下で育てたけれど、まあそれなりに良く育ってくれたと思います。

米井1日のお仕事の流れを教えて頂けますか?

中杉真夏は5:00に起床。午前中 7時間くらい働きます。午後のお昼前後は暑すぎて働けないので、少し日が陰った4:30位から少し働きます。
冬は6:00位に起床。太陽が出ていないと仕事ができないのでそれに合わせて、起きて仕事をします。
春から夏にかけての繁忙期は毎日、ほとんど働き。土日、祝日も休みはなしです。冬は毎日採らなければいけないものがないから、週一回ぐらいは休めます。

米井今の仕事をして良かったことは何ですか?

中杉食べるものをつくっていること。
朝採りの野菜を、生協の店舗に納品しています。そうするとお客様がいつも待っていてくれる。「おいしかった。」といわれるととても励みになります。ですから、自分の理由で欠品しないよう、いつも待っていてくれる人のために頑張って届けています。

米井どんな作物をつくっているのですか?

中杉例えば、今年はキャベツは縦長の「みさきキャベツ」というのをつくっています。このキャベツ、縦長で冷蔵庫の野菜室で立てて保管できる。そうすると保管するとき場所をとらない。しかも、甘くておいしいんです。また、切ると中がオレンジの白菜。通常白菜は大きい方がおいしいのですが、今の日本の家庭では1玉は大きすぎる。中がオレンジだと、きれいだから、半分から1/4にカットして販売します。まだ、出荷量が少ないので価格も高く設定されます。パクチーなども、世田谷のこの辺でつくっているのはうちだけです。
農薬も、国の基準に沿った最低限の農薬だけを使っています。除草剤は使っていません。

米井仕事をしていて苦しかったことは何ですか?

中杉後片付けです。畑で収穫した後の片付け。
以前はとうもろこし600本~800本作っていました。とうもろこしの根はすごくしっかり土に根付いていて、1本抜くだけでももうへとへと。これを、自分だけでやるんだと思ったとき「うわぁ」できるかなあと畑を前にして愕然とします。とうもろこしは商品として収穫できるのは、1つの木に1つなんです。
しかも狸が出る。今度の土曜日が88日目だから収穫だな?前日に畑に行って、とうもろこしの実を触って、明日収穫しようと思っていたら、その88日目に狸にとうもろこしをなぎ倒されて、食べられてしいました。収穫できないのに、後片付けのことを考えるとさらに呆然としました。
後片付けがは、やっぱり主婦でいう、ご飯の後片付けが嫌だというのと同じで、やはりつらい。播種(はしゅ)や定植したりすることは楽しいから、人に頼みやすいけれど後片付けは頼みにくいのです。一人でやらなくちゃって思いつめてしまうのです。

米井体調が悪いときは

中杉やっぱりどうしても、今日収穫しなければいけないときなど、具合が悪くても取らなければいけない。でも、それはどんなお仕事でも同じですよね。

米井土を触っていると教わること、感じることはありますか?

中杉:母も言っていたけれど、同じ仕事でも、子育てと同じで、農業は育っていく喜びがあります。自分たちが植えたものが育っていく。
前の日このくらいだったものが、次の日には一回り大きくなっていて、どんどん毎日大きくなっていく。それを見ると、それがとても嬉しい。毎日成長を見守る喜びがあるんです。相手が黙っているものだから、余計感じるものがある。すっきりと前を向いてばーっと育っていく姿を見ると、心を打たれて癒されます。
畑にいると本当に気持ちいいんですよ。特にしその葉のところにいるときなんか、本当に気持ちいい。

米井子育てと畑の仕事とどちらが大変ですか?また、子育てとの両立はどうやってなさったのですか?

中杉同じぐらい大変だと思います。思うように育たない。
子どもが小さかった頃は、何しろ、時間との勝負。時間が限られているので、時間内に終わらせるように必死でやりました。また、できなかったら、「諦める」。その「諦め」も大事だと思うんです。時々、一緒にお茶をしようとか、お誘いもあったけれど、勿論仕事があるから無理。何かを切り捨てるって言うのも必要だと思います。

米井今、中杉玲子農園は実質、中杉さんだけですが、どのようにして仕事を回していらっしゃるのですか?

中杉「チーム玲子」というボランティア団体があって、私をサポートしてくれています。それ以外にも東京農大の学生さんが手伝いに来たり、近所のおじさんが草むしりをしてくれていたりします。

米井「チーム玲子」とはどうやって出来上がってきたのでしょうか?これだけの人を引きつける力はすばらしい。見習いたいです。

中杉当初は、農業をやりたいという子どもの同級生のあるお母さんが手伝ってくれたことから始まりました。ところが、実は「農業をやりたい、土に触って物をつくりたい」と言う人が結構いて、年々手伝ってくださる方が増えて来ました。収穫や袋詰めなど、手伝ってくれています。とても助かる。

米井人を動かすとき気をつけていることはどんなことでしょうか?

中杉例えば以前は、畑で育てた百合などを、産直の売り場で売り出して花が売れたときは、その収益だけは別の缶に入れておいき、たまったらちょっとしたパーティをしようなどと決めておきます。
こうやって、チームで仕事をするときは、とにかく何か「楽しい!」ということがなければいけないと思っています。
以前やった企画は、お花を売って貯めたお金で、ケーキ屋さんのケーキの前種類をピースで買って、皆でたらふく食べました。
でも、土ってすごいんです。ただの無の状態から少しずつだけれど、お金を生み出す。最初はただの土。すごいと思いませんか?

米井たしかに。土だけですよね。そこから収益を生み出す。なんかドラマチックです。
その他に手伝ってくださる方はいますか?

中杉草むしりをしてくれるおじさんです。
うちは除草剤は一切使っていません。それも、これも、そのおじさんが黙々と草むしりをしてくれているためです。
最初はチーム玲子で楽しそうに仕事をしていると、ずーとおじさんが見ていたので、ある日こちらから、「何かやってもらえますか?」と聞いてみまいした。ジョブ・ハンティングですね。(笑)
そうしたら、草むしりをやってくれるといいます。
私は、こういう場合「ああやらなきゃダメ。こうやらなきゃダメ。」という注文をあまりつけません。自分で考えてやってもらう。多少、物足りないと思っても、うるさいことは言わない。だって、自分でやることを考えたら、お金を払ってやってもらえるだけでも、とっても助かっている。
ちょっと無口な方なんですが、彼みたいな人は裏表がない。私がいるときでも、いないときでも、決して手を抜かずに仕事をしてくれるのです。

米井すごい。マネジメントにも長けていますね。地域の人を巻き込んで、いかに気持ちよく働いてもらうか。中杉さんという方の人徳も大いに関係があるとも思います。

米井シンコーストゥディオにいらっしゃるようになったのはなぜですか?

中杉以前、前を通るといつも定休日で閉まっていた。でも通るたびに、いつか入ってみたいと考えていて他でジュエリーを見ることもあるけれど、全く違う。
シンプルで派手派手しくなくて、飽きが来ない。ヒマがあったら、あそこにいきたいなって思わせるお店です。

米井私がお店にいるときに、良く来てくださいますね。

中杉運よくいるんです。とうもろこしを採りに来た狸みたいに(笑)、米井さん。
米井のショップオーナーとしての魅力がある。
女性一人、経営者としってやっているから惹かれるのかもしれません。作品から店のしつらえ、隅々まで自分の考えを映し出されているので店から何かを感じます。オーナーが元気だと分かる。

米井ありがとうございます。ちょっと恥ずかしいほどです。
私は反対に、うちに来てくださるお客様が魅力的過ぎて、それに引っ張られて仕事をしている感じです。良くぞ、ここまで面白く魅力的な方々がお客様で来てくださるなあと。うちにいらっしゃるお客様は、自然体なのに、強い。芯がしっかりしていて自立しているんですね。そして、めげない。
中杉さんを含め、そういう方のためにジュエリーをつくりたいと思ったのです。人は必ずきつい時があります。そんな苦しいときに寄り添えるジュエリー。
パーティのときに着けましょうというジュエリーというよりは、「ちょっと結構精神的にきついな」というときに元気づけられるように。
頑張っている人を、そっと応援したい。

米井職業って不思議ですね?自分がしたことが、少しでも喜んでもらえると嬉しい。生きがいを感じます。

中杉その点、農業ってやはり職業の原点だなと感じています。何もないところから、土を耕し種をまき、「無」から「有」をつくり出してしまう。それを売って、お金ももらえる。私は、大量生産型の農業ではなく、毎日地べたに這いつくばって仕事をしているからしみじみ感じるのかもしれません。

米井確かにそうですね。「職業の原点」そうなのかもしれません。それに向かい合って生きているって、実にシンプルで羨ましいです。

中杉また少しずつ、冬になれば畑の方も落ち着いてくるのでお店にも伺いますね。

米井ぜひ、お越しください。いつでもお会い出来るのを、ワクワクして待っています。

EDITOR'S NOTE

キャベツとブロッコリーではどちらをつくったほうが得か?今年のトマトはあまり上手くできず失敗してしまって・・・などなど、本当にお仕事が好きで好きでたまらないというのを肌で感じました。

印象的だったのが「仕事は何年ぐらいで出来るようになるのでしょうか?」と聞いたときに「10年」「10年ぐらいから、今野菜が肥料を欲しがっている、ここ数日にやらなければダメだ。」というような、天の声のようなものが分かるようになって来たというのです。ちょっとした葉っぱの様子とか、全体的にかもし出される雰囲気みたいなものを感じ取るのだそうです。「あ・うん」の呼吸とでもいうのでしょうか。

中杉さんは、お店に見えられるとき、感度のいいファッションでとてもかっこいいのです。土にまみれて仕事をしている方だなんて思えない。しかし、語りかける言葉の一つ一つは親しみやすく、人や生きるものに対する優しさに溢れています。そのギャップがとても新鮮です。

中杉さんには、たった一人で大地に向かっていく覚悟があり、自身を過信しない奥ゆかしさがある。

取材後、とうもろこし畑の収穫の後片付けで、畑を前にたった一人で呆然と立ちすくむ中杉さんの姿が浮かんびました。「後片付けが大変。」さらっとおっしゃっていたけれど、一人で大地に向かうということは、毎日がその繰り返しであるはずです。

しかし、その覚悟が、人を呼び寄せ、輪をつくり、収穫、収益につなげているのだと思います。農業を営む職業人として、経営者として、妻として、母として、なにより一人の人間として真っ直ぐに生きている。人はシンプルにそうありたい、そうあるべきであると思える取材でした。

シンコーストゥディオ 代表 米井 亜紀子

製作 「ひたむきに生きる人のために・ストーリーブック」製作チーム

Photographer: 永井守 

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Editor: 米井亜紀子

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シンコーストゥディオ株式会社 代表 米井 亜紀子

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