宛名がすでに一つのデザインの世界
鹿島象嵌(かしまぞうがん)の鹿島和生さんが送って来てくれた、メール便の文字。
A4のコピー用紙に、さらっと書いてある。
文字そのもの、文字配置、なんて味があるんだろう。
宛名そのものが、すでにデザイン作品。ちょっと捨てられません。
工芸作家の宛名は、こう来るのか!と少々感動してしまいました。
「刀の鍔(つば)などを制作していた、刀剣金工の職人が、明治維新の廃刀令で仕事を転換して始まったのが、日本の近代ジュエリーの制作の始まり」
という話を以前も書きました。
そんなことで、最近は金工の作家の方たちとお付き合いすることが増えました。その一人が鹿島和生さん。
今度、ジュエリー・アーティスト・ジャパン(JAJ)のイベントで、ジュエリーや金工の制作に関わっている若い人向けに、世界的建築家の方とトークセッションをすることになりました。
そのテーマが「日本のこれからのモノづくり – 建築×ジュエリー×金属工芸」
そこで、お話を一緒にしていただく方として、鹿島象嵌(かしまぞうがん)5代目継承者の鹿島和生さんにも参加をお願いしました。
鹿島象嵌については以前こちらでかいています。
金属工芸とジュエリー- 鹿島象嵌(ぞうがん)の工房から
昨日、鹿島象嵌についての資料として、鹿島さんが色々な貴重な資料を送ってきてくれました。
その送って来てくれたときのメール便の宛名が、この写真です。
受け取った瞬間。文字や文字の配置すべてが、なんてイケているんだと…
新しいことに挑戦する鹿島象嵌
鹿島さんは伝統工芸の世界では、まだまだ若い50代。
流派や今までの伝統にとらわれることなく、常に新しいものを追い求める作家です。
弟子にも、たくさんの外国からの留学生がいます。
工房は国境を感じさせない雰囲気があり、そして何でも新しいことに飛び込んでいきます。
何より、作品がすべてを物語っています。
鹿島和生さんの個性+技巧 +仕事に対する覚悟が、現れている様に感じます。
「なんか面白い」が大事なんだ
私も、伝統工芸なんて難しくてわからない。
なんか、正座して鑑賞しなければいけないようで、堅苦しいと思っていたのです。
しかし、鹿島和生さんの象嵌作品は、なんだかいつもちょっとユーモアがある。
一生をかけて仕事をしているのに、そこに力みを感じないのです。
以前私が、「昔の鍔(つば)をそのまま模して、技巧の優劣を決める鍔にあまり感動しなかった」という話を、鹿島さんに話したら。
「それは、なんか面白い。なんか違っているというエッセンスが無いからかもしれないね」と言っていました。
その言葉から工芸やアートって言うのはそうやって見ればいいのか、「なんか面白い」でいいのか、とすごくストンと腹に落ちた経験があります。
今回の、この宛名。
ひどく心を揺さぶられた。受け取って、びっくりして、楽しくて。
文字の行間、字間、文字の形、すべてが鹿島和生さん。
もちろん、実際の作品はもっと達観していてすごいけれど、こんな宛名を紹介して、金工作家のリアルな姿を教えたくなってしまったのです。
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