「形見をつくりなおす」はジュエリー・リフォームの大切な仕事

今年の1月にご主人を亡くされたというお客様からご注文をいただいたのは、4月のはじめごろでした。
お持ちいただいたK18の立派な喜平チェーンは、生前にご主人の愛用品だったものとのこと。
これから二人のお嬢様と生きていくうえで、ご主人との思い出を形にして残したいという希望を汲み、チェーンをそのまま溶かして三人分のリングをお作りすることとなりました。
デザインする上で心掛けたのは、いつまでも長く身に着けることができるものにするということ。



ご家族それぞれのご希望を反映させつつ、作りのしっかりしたリングを目指しました。
まずお母様は、店頭にあった透かしのリングを気に入られたので、それを参考にしながら、しっかりと地金のついた丈夫なデザインを考えました。

流線型の独特なフォルムが個性的、加えて2ピースのダイヤを留めたことで華やかな印象につながっています。
上のお嬢様は腕が交差したようなデザインをご希望でした。

シンプルながら、交差した腕の一方につや消しをかけたことで、メリハリのあるデザインとなっています。
下のお嬢様はハートのモチーフを入れてほしいとのことでした。

交差したハートのかわいらしさを、ミル打ちで表現したアンティーク的な品のよさが程よく引き締めています。
三点のリングに共通するのがご主人の誕生石であるサファイアを、腕の内側、あるいは側面にさりげなく留めたこと、そして命日を刻印したことです。

多くのジュエリーは自分を飾るためにあるものですが、思いを形にして残すというのもジュエリーの持つすばらしい役割のひとつといえるでしょう。
今回おつくりしたリングが大切な人との思い出を宿し、家族の絆をいっそう強く繋ぐ助けとなるならば、作り手としてこれほどの喜びはありません。
リングを受け取りに来たお客様の笑顔を見て、この仕事の深さと人の心に向き合う難しさを改めて感じるのでした。

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