DAIKYU DIARY大九日誌

「物欲なき世界」の時代に手仕事の未来を探る

菅付雅信さんが書いていた「物欲なき世界」という本があったけれど、
ジュエリーは、究極の物欲と言われます。
小さくて、素材が高くて、手間がかかる。

そんなものが否定される世の中で、あえて、1000年以上前から、基本的に人の手と道具で金属を彫っていく非常に原始的なテクニック。技巧の必要とされる「彫り」という仕事にフォーカスをあてたイベントを開催しました。

アイデンティティの違いが浮き彫りになるものづくり

今回は、お客様向けとプレス向けの2回の開催をさせていただきました。
一人は英国の伝統的なハンドエングレービング（手彫りのクラフトマン＆デザイナー）Castro Smith(カストロ・スミス）。
カストロは、イギリスの伝統的な職人組合ゴールドスミスカンパニーやハンドエングレービング協会に所属しています。
今回は、エリザベス女王がパトロンである、ウィンストン・チャーチルの財団から、人材交流のためのフェローシップのお金が支給され、日本にやってきました。
今回私は、FB上で彼がコンタクトを取ってきたのをきっかけに、日本での活動を少しお手伝いしてあげています。現在28歳。

一方、日本のエングレーバーは宮本輝美。美大を卒業した後、カスタム・メイドのジュエリー会社で腕を磨いて、今年独立した女性の彫師29歳。私は、今のところ同年代で彼女ほど、美しくほれる職人を知らないし、またセンスも抜群で今回もすごい彫の作品を出して来ました。
この2人に彫らせてみたのがこちら。

カストロの作品です。さすが、アルファベットの国。アルファベットのデザインはいつも考えていて、面白い彫のデザインが出て来ました。
宮本のはこちら　枯山水の上に「あん」　しぶきの雰囲気を鏨で表現した背景の中に「福」の草書体。

カストロも宮本も同じシルバーのプレートに彫らせてあります。
まったく違うのです。
ここまで感性も、仕上がりも、考え方も違うというのは、正直驚きました。
特に、宮本の作品は、今までに日本の彫り職人が挑戦したことの無い、鏨（たがね）という日本伝統の道具に新しい可能性を注ぎ込むきばえでした。
そして、2人のアイデンティティの違いは、ジュエリーと人の心に、深く染み入るものには、必ず必要なエッセンスに違いないのです。

新しいテクノロジーと手しごと

一方で、新しいテクノロジーでジュエリーをつくるということも、すでに始まっていてカッティングマシーンやレーザーカッターの導入が始まっています。
こういった新しい技術をすべて否定するわけではなく、新しいものを使いながら、最後に手仕事が入らないと、やはりダメだと思うのです。
究極の上質感というものは、なぜか手仕事でしか出てこない。
これだけは、揺るがない事実だと思います。ジュエリーのような精緻なものだと、どうしてもはっきり出てきてしまうのです。
それは、見て触って、着けて、感じてみないとわからない、しかし明らかに違います。

つくり手と身に着ける人をつなぐ場所-人の想いを伝えるために

だからこそ、つくり手と身に着ける人をつなごうと考えました。
そして、世の中の人に知ってもらいたい。
だから、プレスの人を呼びました。

人の魂がはいっていて、仕事をしたものだからこそ、人と人の想いをつなげるような気がしています。
「ジュエリーはもう要らない。」と言われることがあります。
なんていたって、世は「物欲なき世界」です。
確かにそうかもしれません。
しかし、ジュエリーは華やかな席で身に着けるというより、実はもっと普段の生活に身につけ、人生とともに苦難を乗り切るという深い意味合いのものだと考えています。
つまり、やはりモノをを売っているんだけれど、究極の「想い」も売っている。
だからこそ、人の手が必要なんだという、そういう確信を得たイベント開催でした。
小さな町の、小さなお店でのイベントに、信じられないほどの質の高いプレスの方々が来てくださったこと。
また、何よりシンコーストゥディオを愛してくださるお客様が来てくださったこと。
それが何よりうれしくて。
私自身が元気を頂き。また、前に進もうと思える日でした。
ちなみに、このシルバーの彫はブレスレットチャームとペンダントとして、特注でイニシャルや日本語の文字を彫りいれます。18,000円+税。納期は2～3週間いただきます。ご注文はメールまたは、店頭まで。